大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)18号 判決

上告人(被告) 伊倉町選挙管理委員会

被上告人(原告) 内田善右衛門 外三四名

一、主  文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

二、理  由

上告代理人弁護士清瀬一郎、同石坂繁、同内山弘の上告理由第一点について。

論旨は、部落会の決議により部落民のした署名及請求代表者又はその代理人が第三者を同伴して集めた署名は無効であるというのである。しかしもともと法律は署名を集めるについては運動の行われることを予定しており(地方自治法七四条の四参照)また運動に従事する者が請求者又はその代理人に限られるわけもないから、かゝる行為によつて署名が事実上心理的に影響されたからと言つて、前記の事実だけでは、署名が強迫又は詐欺による署名と言うことはできないのであつて、このようにして集められた署名を無効とすべき理由はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、地方自治法七四条の三第二項は、署名が詐偽又は強迫に基くものであるかどうかの認定を市町村選挙管理委員会に一任しているのであつて、その認定は裁判所も覆すことができないと主張するのであるが、右七四条の三第二項は右の認定を一応市町村選挙管理委員会の権限に属せしめているけれども、署名簿の署名に関し訴訟のゆるされる以上、裁判所は市町村選挙管理委員会の認定の当否を判断しなければならないのは当然であつて、論旨は何等根拠のない主張と言わなければならない。

第三点について。

論旨は、本件署名簿は地方自治法施行規則一二条、同九条に定める様式を備えていないから無効であると主張するのであるが、本件署名簿について原判決が認定したような軽微な瑕疵は署名簿の効力について何等影響のないものと解するを相当とする。論旨は採用することができない。

以上説明のとおり、論旨はすべて理由がないから、本件上告はこれを棄却することとし、民訴四〇一条、九五条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

(別紙省略)

上告代理人清瀬一郎、同石坂繁、同内山弘の上告理由

第一点 原判決は普通地方公共団体の長の解職請求の署名簿への署名の成立に関する重要なる法規の解釈を誤りたる違法の判決である。

地方公共団体の長の解職、即ち通俗に云ふところのリコールの手続については、該公共団体の選挙有権者の総数の三分の一の署名を得するを要する(地方自治法第八一条)。斯の如き多数の署名ある解職要求書が自然発生的に成立するの道あるべからず。これを取り纏めるには其際何人かゞ勧誘周旋することあるは当然の成り行きである。しかし斯の如き勧誘周旋を自然の成り行きに委すときは、其間多数無責任の行動を為す者を生ずることも亦常識上容易に想像し得られるところである。仍て地方自治法は此の署名簿取纏め運動に一の限界と規制とを設けた。即ち公共団体の長の解職発案者及び其の委任を受けたる者のみを以て署名運動を為し得るものとした。法律に於ては前者を「請求代表者」といひ後者をその「受任者」といつて居る。(解職につき準用せられたる地方自治法第七四条以下及び同法施行令第九四条以下)。乃ち此の二種の運動者以外の者の署名蒐集を禁じて居る。今もし一部論者のいうが如くこの禁止は手続規定に過ぎぬ。此の規定に依らざるも真実に有権者が署名を為したときは、その署名は実体上有効であるというが如き解釈を採らんか、上記地方自治法の立て前は直ちに崩壊し、リコール運動が始まれば、無数の運動家が自治体内を右往左往し、全く拾収することの出来ない状態となるに至らん。故にこの署名運動の規正の法規は所謂強行法であつて、これに反する方法を以て集められた署名はこれを無効と解釈せねばならぬ。此の前提の上に立つときは、部落会の決議に依り部落民に為さしめたる署名は無効とせねばならぬ。何となれば部落という団体即ち解職代表者又はその受任者以外の者の威力を以て集めたる署名は、リコール署名としては効力を認むべきものではないからである。又部落というが如き、集団でなくとも地方有力家にして請求代表者に非ず又受任者にも非ざる者を同伴して、其者の「顔」又は「力」に依り蒐集された署名も亦、之を無効と解さねばならぬことは睹易きの道理である。然るに原判決は、正本十九枚目裏十一行以下に於て、

「按ずるに、請求代表者が署名を求めるに際し第三者を同伴することは、署名者と第三者との関係如何によつては署名者の自由な立場に於ける批判が妨げられるという点に於て、このやうな方法は必ずしも妥当といへないし、又部落民が請求者自体を自由に批判検討なすは格別、部落会の決議として署名についての態度を決定し一律にこれを部落民に強制するやうなことが排斥せらるべきことは勿論であるが、さればといつて右に述べたやうなことが、単に署名の動機となつたに止まり、現実に署名者の意志の自由を拘束したと認められない限り右類するやうなことがあつたことの一事を以て直ちに署名者の署名が無効とはいひ得ない云々」

と説明し、外部より測ることの出来ない署名の動機の如何という観念を持ち来り、此種違法署名の効力を是認するの裁判を下して居る。斯の如きはリコール署名の規正に関する法規を有名無実に帰せしむるものであつて原判決は昭和二五年法律第一三八号に所謂「法令の解釈に関する重要な」誤解を為したものであり、貴裁判所の御判断に依り是正せられなければならぬものである。

第二点 原判決は地方自治法第七四条の三、第二項(解職請求に準用さる)を正当に適用しなかつた違法の判決である。

右第七十三条の三(七四条の三〇誤記と認められる)は、選挙法に於ける投票無効原因を列挙したる立法令(例へば公職選挙法第六八条)に傚ひ署名無効の原因を列挙した実体規定である。従つて此の規定は事件が都道府県に訴願せられその裁決を受くる場合に於ても、更に又事件が裁判所に繋属するに至りたる場合にも均しく適用せられる。同条第二項に曰く

「前条第四項の規定に依り詐欺又は強迫に基く旨の申立があつた署名で、市町村の選挙管理委員会がその申立を正当であると決定したものはこれを無効とする。」

と在る。此の規定は詐欺強迫の事実の有無の認定を市町村選挙管理委員会に一任したものである。しかして自治体の選挙有権者の三分の一というが如き多数の署名については、到底上級審に於て一々詐欺、強迫の有無を審理判定するを得ざるが故に、法は此の事実の認定を其自治体内に居住し、而も市町村長其他の首長とは独立の地位に立つ市町村選挙管理委員会という陪審の判断に委ねたるものである。而してこの立法の理由にはまたこれを諒とすべきものである。

然るに原判決は正本十七枚目表十二行以下に於て、

「しかも本件証拠の結果に徴すれば被告の提出する全証拠によつても何等被告の主張するような詐欺強迫の事実は認められないのみならず云々」

といい、市町村選挙管理委員会の詐欺強迫に関する事実認定を覆えさんとしたるは、明に上記地方自治法第七四条の三第二項の適用を誤りたる違法の判決である。

第三点 原判決は地方公共団体の長の解任請求の場合に準用せられる地方自治法施行令第九条の解釈適用を誤りたる違法の判決である。

右令第九条には請求者署名簿としては同令附属の名簿様式を用うべきことを命じて居る。これは本署名者が通常何千人に上るという事実に基き、これに均斉の様式を備へしめ事の混乱を防がんとするものであつて、之に反するものを無効としたものである。然るに原判決はこの道理を無視し、正本十一枚目裏末行以下に於て全く右要求を無視した署名簿の効力を認めたるは違法であること勿論である。原判決はこの点よりいうもよろしく破毀せらるべきものである。 以上

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